30日間チャレンジブログ

40代主婦が綴る小話。

アニエスの思い出

わたしとアニエス・ベーの最初の出会いは確か中学2年生。
地元に初上陸し百貨店でオープンしたばかりの頃。

何かの用事で母と共に父の職場へ出向いたのですが、その時に父親がアニエスのお店に連れて行ってくれました。
仕事でその百貨店と関りがあった父は店員さんとも気さくにお喋りします。

そしてわたしに「おい、この店知ってるか?東京ではすごい人気なんだぞ。やっとここにも来たんだ。地元の1号店だぞ。」と、嬉しそうに紹介してくれました。

今でこそ中学生でも知ってる超有名ブランドですが、当時のわたしはそこまでブランドやファッションに詳しくなかったため「ふーん」くらいの反応しかできませんでした。

そりゃあそうですよね。都会ならいざ知らず、田舎の中学生の間で流行るブランドはプーマやチャンピオンなどのスポーツ系が中心でしたから。

 

初めて入るアニエスのお店は、白と黒がメインのかなりシンプルな内装でした。
ロゴはずっと変わらず、あの筆記体のような文字がTシャツにちょこっと乗ってるだけ。
デザインの良さは全くわかりませんでしたが、ただ「このTシャツなら学校にも着ていけるな」とだけ思ったのは覚えています。
わたしが通っていた学校の体育では、ジャージこそ学校指定でしたがTシャツは自分で用意する仕組みで、無地かワンポイントの白いTシャツであれば何でもOKという決まりでした。
生活の大部分を学校で過ごすのですから、どうしてもそこで着れるものを中心に考えてしまいます。
「せっかく来たんだから何か買っていけ。このTシャツはどうだ?」という父の勧めに素直に応じ、白いTシャツを1枚買ってもらうことにしました。

騒いでいるのは毒母です。「中学生のクセにこんな高いTシャツ買うなんて!こんなただの白いTシャツなのにバッカみたい!!」
無理もない話です。1枚9,000円くらいしてましたから。
でも、その頃は毒母がわたしの服を全て買い揃えていたので、服の値段なんてこれっぽっちもわからない。自分のお小遣いで選んでいたものなんて文房具くらいで、そんな中学生に高いだのなんだの言ったって通じませんよね。
「アンタ本気でこれ買うつもりなの?!ただの白いTシャツにこんな小さな字がついただけのやつ!」
「いいだろ別に。もう中学生なんだし、ブランド品のひとつくらい。」
父親としても、知り合いの店員さんの前で商品をディスる母親を黙らせたかったのでしょう、ちょっと凄みを醸し出して反論しました。

実は、父親が気を良くしてわたしに物を買うというのはかなり珍しいことでした。

それまでは、「これを買ってやるからお母さんには黙ってろよ。」と言って父親の外出を見て見ぬふりするなど、交換条件として物を買ってくることが多く、わたしはそれがすごく嫌でした。
おそらく父は飲み歩きか女の所へ出かけていたんだと思いますが、黙っていても結局バレるんですよね。毒母が買った覚えのない物をわたしが持っていることに気づき「それどうしたのさ!お父さんが買った?また何か言われたんでしょ、物に釣られるなんて情けない!いらないって言いな!」と怒鳴りつけます。
よく考えればこれって夫婦の間で解決するべきことで、間にわたしを挟むのは間違っているし、両者ともわたしに圧をかけてくることだって間違っています。

今なら冷静にそう思えるけど、子どもだったわたしには理解できず、とにかく物を使って取引されるとロクなことにならないため、父に何かを買ってもらうことに嫌悪感がありました。

しかし、このアニエスのTシャツのときは雰囲気が違いました。
なんとなく、素直に受け取っても大丈夫そうだったし、そうしておいた方が場の空気が丸く収まるように感じました。

結局、父はTシャツを買い、店員さんも終始ニコニコ顔。毒母だけが苦虫を嚙み潰したような顔でわたしを睨みつけていました。

 

相変わらずアニエスのお洒落さとブランドの凄さはわかりませんでしたけど、とにかく質が良くてそれはすぐに分かりました。
どんなに洗っても首元が全くヨレないし、シルエットもシャキッとしてる。
生地もずっとヨレずパリっとしていて、高校生になってもまだ着てました。
さすがに高校生にもなるとブランドへの興味が湧き、クラスメイトからも「おっアニエスじゃん」と目につくようになったり。

アル中の父とはほとんどコミュニケーションを持たなかったので思い出らしい思い出がほとんどないのですが、これは数少ない良い記憶のひとつです。
邪心とか駆け引きとか、そういった下心がまったく感じられなかったプレゼント。
すごく不思議ですが、その後さまざまなトラブルがあっても「あの時Tシャツ買ってやっただろうが」と言われたことはありませんでした。キレイさっぱり忘れてしまったようです。その代わり他の物でネチネチ嫌味を言われましたが、Tシャツに関しては一切何もなく。
毒母もそのうち忘れてしまったようで、口にすることはありませんでした。

 

今でもアニエスのお店の前を通るたびにこのことを思い出します。
その後の父親の不倫や離婚騒動で敬遠していたけれど、もうあれからずいぶん月日も経ったし、久しぶりにあのTシャツをまた買ってみてもいいかもしれない。

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