たしか中学生、もしくは高校に入りたての頃。
父親が友人を連れて帰宅しました。いつものように酔っ払って。
友人を連れているせいかこの日は上機嫌で、家でもさらに酒を飲み始めます。ビールだったか日本酒だったか、もう覚えていないけれど。
本当は早く部屋に戻りたかったわたしですが、寝るにはまだ早い時間だったし、お客さんが来て早々に部屋へ逃げ込むと「失礼だ!」と父親が豹変するので仕方なく茶の間で待機。
父親の友人はわたしを見ながら子育て論を始めました。父親も機嫌良くその話題に乗ります。まぁ酔っ払いの語りなんてあまり中身がありませんけど、当人たちは立派なことを言っているつもりのようです。
そこへ何を思ったのか毒母が会話に参加し始めました。
「子育てには適度に叱って懲らしめるのが大事なんです。わたしは親の威厳を見せるように教わっています。」
なんと宗教の教えをここで説こうとし始めます。これには本当に驚きました。酔っ払い相手に宗教の勧誘をするつもりなんだろうか。え、なんでそんな無意味なことを???
父の友人はそんなことには全く気づかず話を続けます。
「親の威厳を見せるってさ、なかなか難しいよなァ」
「子どもが悪いことをした時に罰を与えるのがいいんですよ。」毒母は大真面目です。「わたしは子どもたちのお尻を叩いて懲らしめています!」
本当にこの女は愚かなんだとこの時心の底から悟りました。この雰囲気で「お尻を叩く」なんて言ったらどうなるか、ちょっと考えればわかりそうなものなのに。
案の定、その友人は四つん這いになってクルリと後ろを向き、自分の尻をこちらに突き出しながら言いました。「じゃあボクのお尻もペンペンしてくださァ〜い」
父親はそんな友人の姿を見て笑っています。
母親は「そうですよ!しっかり叩かないと躾になりませんからね!」とまだ大真面目に語っています。そしてこちらを見るなり「アンタもいつまでここにいるのさ!もう寝なッ!」と鬼の形相で言い放ちました。
混乱しました。
大人の下品な姿を見せられておまけに叱られるって、一体何なんだろう。
ものすごく気持ちが悪かったけれど、この気持ちは自分で処理しなければダメなんだろうな。
というか、父親も母親もわたしを守るようなことはしなかったから、大人の世界ではこれが普通なのだろう。
気持ち悪いなんて思う自分が潔癖すぎるのかもしれない。
そう考えて封印しました。誰にも話したことはありません。
わたしの記憶の中だけで、小太りのおじさんが今もこちらに向かって尻を振り続けています。
今この歳になってあの光景の異常さが分かってきました。
「子どもの前でやめてください」と、たぶんわたしなら言うと思います。
それとも世間の常識は違うのかしら。
酔っ払った男性の尻振りを見せつけられるのは当たり前なのかな?
毒母はこの話を何一つ覚えていません。彼女にとってどうでもいい記憶なのでしょう。