30日間チャレンジブログ

40代主婦が綴る小話。

絵描きさん夫婦の話

仲良くさせていただいている、70代のご夫婦がいます。

旦那さんの体調があまり良くないため、奥様が働いて家計を支えています。

互いの素性はあまりよく知らなかったのですが、話していてなんとなく気が合うためあまり深い話もせずにお付き合いをしていました。

 

そんなある日、あちらから「今度我が家でお食事でもいかがですか。」と嬉しいお誘いが。

手土産を持っていそいそと伺い、そこでようやくこれまでの半生をお話してくれました。

聞けば旦那様は独身時代、絵描きとして海外を渡り歩いていたのだとか。
スペインやイタリアで絵を描いたり売ったり、フランスではムーラン・ルージュへ行くつもりがタチの悪い客引きに騙されてぼったくりバーへ連れ込まれ、払えるお金がないからと全速力で逃げ出した話を笑いながら語ってくれました。

オランダかどこかではクスリもちょっと嗜んだそうで、「まあ、昔はいろいろいい加減だったからさ。」とニヤリ。

聞いてるこっちはびっくりですが、当の本人は特別どうってことない感じで淡々と語ります。

いやあ、いいですねーこういう放浪癖のある人。

そう感じたのはわたしだけではないようで、奥様も彼の自由奔放な生き様と絵の才能に惚れ込んで結婚したんだとか。

「その頃わたしは銀行員で稼ぎがあったからね。生活はわたしが支えるから、この人にはずっと絵を描いてもらいたいって思ってたのよ。」

 

カッコいい…!!!

どうやら奥様も絵心のある方のようで、だからこそ旦那さんの才能に惹かれたのかもしれません。

おうちの中には旦那さんの過去の作品が部屋のあちこちに置かれています。

それ以外にも、他の絵描き仲間から貰ったという額に入ったバラの油絵も大切に飾られていました。

どうやらその世界では有名な方の作品のようです。名前をお聞きしたのですが、絵画の世界に疎すぎて忘れてしまいました。

聞けば、ふたりの生活がかなり厳しかった頃、その有名な女性画家が
「いよいよ生活が苦しくなってどうしようもなくなったらこの絵を売りなさい。」と言って手渡してくれたものだそうです。

 

しかし、とても素敵な絵なのでどうしても売りたくなかったふたり。
死に物狂いで働いて、なんとか売らずにここまでやってこれたと仰っていました。

 

なんだかフランス映画に出てきそうなエピソードで、ただただ聞き入ってしまいました。

貧乏画家とか才能に惚れ込んで尽くす女とか、映画の中にしか存在しないかと思っていたら以外の身近なところに実在しているんですね。

 

不思議なもので、類は友を呼ぶのかこのご夫婦の周りにはわりとそういう人が集まるようです。

「ほら、〇丁目に廃校を改築したギャラリーがあるじゃない、あそこの夫婦も似たような感じよ。」
「△△町のご夫婦はご主人が陶芸家なのよね。」

芸術家夫婦ってそんなにゴロゴロいるもんなんでしょうか。それともこの町が特殊なのかな?

 

昨今ではご主人が家事を行い奥さんが外へ働きに出る「主夫」というスタイルもよく耳にしますが、このご夫婦は主夫でもなんでもなく、稼ぐのも家のことも全部奥さんがやります。ご主人は体調を崩して週に何度も病院へ行かなければならず、その送迎も奥さんがやります。

生涯絵を描き続けるのが夢だったためお子さんはいません。

「もうずっとこの生活だからね、慣れたもんよ。」と、ショートカットで颯爽と歩く奥様の後ろ姿はとても凛々しい。

 

奥様が大黒柱なだけあって、ご主人の機嫌を取ったり依存しているようには全く見えません。
かと言ってカカア天下かというとそうでもない。
友達のような仲間のような同士のような、すごくフラットな関係なんじゃないかと思います。

もしかすると欧米にはこういうタイプのカップルが多いのかな?

 

時代が時代だったので籍を入れたけど、今彼らが20代だったら結婚しないで一緒にいたんじゃないかなあと思わせるような間柄です。

 

そんな彼らを「変わってるご夫婦よね」と言う人もいるけれど、わたしは全くそう思いません。

 

お食事を楽しんでさあ帰りましょうというとき、奥様がわたしに向かって
「あなた、ネチネチしてなくていいわね。わたし好きよ、そういう性格。」と仰ってくれました。

もしかするとこのご夫婦のエピソード聞いた他の人は、わたしと違うリアクションを取ったのかもしれません。
まあ、日本のトラディショナルな夫婦の形とは言えませんしね。

 

世間の反応はどうであれ、わたしはこのご夫婦が大好きです。

ご主人の健康状態が良ければ、きっと今でも外国で絵を描いていたに違いない。

 

同じ宗教の信者仲間なのですが、芸術家肌のご主人は他の幹部たちからずいぶん煙たがられていたようです。
「もう上の立場になるのはこりごりだ」って言ってました(笑)。

立場はどうであれ、慈愛とか思いやり、平和を愛する心はご主人の絵に彩りを添えていると思います。

わたしはそういう人と仲良くなりたいな。

 

感謝日記
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