30日間チャレンジブログ

40代主婦が綴る小話。

耳の記憶

鼻と脳は直結しているから、思い出の香りは記憶に残りやすいと言います。

わたしはこれにプラスして、聞くと記憶が蘇る音や音楽があります。どれもあまりいい思い出ではありませんが。

先日なに気なくインスタを見ていたら、ある投稿のBGMがフランシス・レイの「白い恋人たち」でした。そこでブワーっと湧いて出たのがスキーをする父親の姿。

毎年シーズンになるとスキーのために何泊か家を空けていた父。行きつけのロッジに泊まり込み、昼はスキーで夜は飲み会コースが毎年恒例のようでした。父はいつも友人たちと出かけ、家族を連れて行ったことはありません。

なのでわたしは父親がスキーを滑るシーンを見たことがなかったのですが、ある時「友達が撮ってくれた」と1本のビデオテープを持って帰ってきました。

スキー場の色んなコースで滑る父親の姿。背後に流れていたのが「白い恋人たち」でした。まだハンディカムすら出ていなかった当時にしてはなかなか手の込んだ作りだったと思います。

なぜか母親も気に入っており、誰かが来るたび再生して見せていた覚えがあります。客からしたら迷惑な話でしょうけど(笑)。

わたしはそこに何の感情もなく、TV番組の合間に流れる興味のないCMを見ているような気分でした。ただ音楽だけが耳に残り、あまり心地良くない曲のひとつになっています。

 

一緒に行きたいとも、どうして連れて行ってくれないんだろうとも思いませんでした。父は冬になったら友達とスキー場で何泊かするもの、という刷り込みがあったのかもしれません。母親はむしろ喜んで送り出している雰囲気がありましたから、すでに彼らは折り合いが悪かったのでしょう。父の留守をいいことに、仲の良いママ友を家に呼んで夜中までお喋りしていました。

 

実は数ヶ月前に父親が亡くなったとの連絡を受けました。自分でも驚くぐらい無感情で、嬉しくも悲しくもありませんでした。ただ、それに伴い知らなくても良い情報を今さら目にすることになり、改めてどうしようもない人だったんだなと、そのモヤモヤだけがありました。

こうして耳に残った記憶から父親が蘇ることもあるけれど、昔の映画を思い出すような、でも懐かしさも何も込み上げてこない不気味な無の感情しかそこにはありません。

 

記憶と感情って実は別々なんだなと思いながら、白い恋人たちが流れるその投稿をそっと閉じました。