母方のじいちゃんは母が小学生の頃に事故死したので、わたしは写真でしか見たことがありません。
若くして亡くなったので、親族の誰も「この人があんたのおじいちゃんだよ」とは言わず、皆「父さん」と呼んでいます。たしかに、あんな若い写真じゃ「おじいちゃん」なんて言いにくい。
けっこう壮絶な交通事故だったようで、思い出すのが辛いのかあまり祖父の話は聞いたことがありません。実際、母も小学生時代までの記憶しかなく「なんでも器用にこなす人だった」くらいしか思い出がないようです。
祖母にしてみれば結婚生活はわずか15，6年で終わってしまい、後は残された子どもたちを女手一つで育て上げることに必死だったため、悲しみに暮れる暇はなかったんだとか。
わたしが成人する頃になって、心や生活にゆとりが出たのか「おじいちゃんはね」と、少しずつ祖父の話をしてくれるようになりました。
なったんですが、その内容がしょーもない（笑）。
まだばあちゃんが結婚して間もない頃、ふたりで花火大会へ出かけたことがあったそうです。
夫婦で浴衣を着て打ち上げ花火を眺めた帰り道。
ふと見ると、隣を歩いていたはずのじいちゃんがいない。
どこへ行ったのかと後ろを振り向くと、なんとじいちゃんが若い女性に「お茶でもどうですか」とナンパしていたそうです。
ツカツカとじいちゃんのところへ向かい、「ちょっと！何やってんのよ！」とすごい剣幕で怒ったそうですが、じいちゃんはケロっとした顔で
「なんだよ、綺麗な女の人がいたからちょっと声かけただけじゃねぇか。」と返してきたそうで（笑）。
それでもめげずに「なんでわたしがいるのにわざわざ声かけるのよ。」と詰め寄ったそうですが、「だって綺麗だったんだから仕方ねぇだろ。」と、まったく悪びれる様子がなくさすがに呆れたと言ってました。
「なんか、そういうところのあった人だったねぇ。早くに死んじゃったけどさ、長く生きてたらいろいろあったかもしれんわ。」
たしかに。可能性がゼロとは言い切れないな…。ていうか、そこでナンパ成功してたらどうするつもりだったんだろう。新妻を置いてお茶しに行ったんだろうか。
わたしは写真でしか見たことありませんが、30代そこそこでこの世を去ったじいちゃんの遺影は顎がシュッとしていて確かにハンサム。
ナンパを繰り返していたら、何割かは成功していたかもしれません（笑）。
奥さんの目の前で堂々とやるような人ですから、隠れて浮気するタイプではなかったようです。
幸いなことにその性格が息子たちに遺伝することはなく、家族円満でみんな仲良し。
母だけが特殊な性格だったようで、「カッとなるとちゃぶ台をひっくり返して大変だった。」と、ばあちゃんも叔父さんもため息交じりに語っていたのを今でも覚えています。
毒親の素地って幼少期から根付いているんだなと、妙に納得したものです。
では、じいちゃんのナンパな性格は一体どこへ受け継がれて行ったのか。
このエピソードを聞いて以来、どうもわたしは自分の中にその遺伝子があるような気がしてならない（笑）。
別にナンパはしませんけど、ガードは特に固くないというか。
今でこそようやく分かるようになったけど、昔は女子たちが「あの人チャラいよね。」とか話してても、その意味がいまいちピンと来てませんでした。
「あの人は女の子に対して軽い。」というのもよく分かってなくて、「何をすると軽いの？それって悪いの？」と友達に聞いたことがあったのですが、それはおそらくジイちゃんのナンパ遺伝子のせいでわたしの基準がバグっていたんじゃないかと、今になって思います。
というか、そもそもジイちゃんのそれはナンパだったのかな？
たまに「綺麗な女性には声をかけるのがマナーというものだろう。」と主張する男性が世界のあちこちにいますけど、じいちゃんもそういう人種だったのかもしれません。
女性側としては、声をかけられなくたって「あの人失礼だわ」なんて思うことはないでしょうけど、あの価値観はいったいどこからやってくるのか。
海外へ行くと、日本人が珍しくて声をかけてくるオジサンがけっこういます。
電話番号教えてとかメアド教えてとか。今どきメアドって（笑）。
中東のオジサマに「再婚相手を探しているから今度うちに遊びに来てくれ。」と、横に夫がいるにも関わらずそう言われたときは開いた口が塞がりませんでした。
うちのじいちゃんが中東で生まれていたらこんな感じになってたのかな。イヤだな…。
とにもかくにも、じいちゃんのエピソードで事細かく聞かされたのはこれっきり。
よっぽど祖母の印象に残っていたんでしょうね。
もうちょっとマシな話も聞きたかったけれど、その祖母ももう何年も前に亡くなってしまったし。
わたしの中で、じいちゃんは永遠のナンパ師です。かわいそうに…（笑）。
感謝日記
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