30日間チャレンジブログ

40代主婦が綴る小話。

独身貴族のおばの話

今もあるんでしょうか、この言葉。

父方の叔母がまさにそれで、子どもの頃からちょっと憧れでした。

毎年夏休みと冬休みに祖父母の家へ泊りに出かけていたのですが、そこで同居している叔母のお部屋に入り浸るのが好きで、寝るときも叔母と一緒でした。

 

ちょうどドラマ「逃げ恥」のゆりちゃんみたいな雰囲気。

 

医療関係の資格を持っていて、確か派遣社員として働いていたと思います。

資格職かつ実家暮らしで食いっぱぐれの心配がないため、契約が切れると次の仕事が始めるまでの間に海外旅行やコンサートに出かけて遊ぶという、実に優雅な生活をしていました。

スイス旅行が好きでよく訪れており、お土産にカランダッシュの色鉛筆セットをくれたことがあります。

当時、田舎者のわたしの周囲にそれを知っている人なんかいなくて、学校へ持って行っては「これね、塗ったあとに水をつけると水彩絵の具みたいになるんだよー」「へー、すげー」というやり取りをよくドヤ顔でやってました。

日本の文具屋さんで見かけるようになったのはそれからかなり後のことで、叔母は見る目あるなあと密かに感心したものです。

 

その後もたびたびスイスへ行き、わたしが中学生のときにはスウォッチをお土産に買ってくれました。

ケルトンのデザインでベルトは半透明のシリコン製。わたしにとってはかなり斬新なデザインでした。

スウォッチもまだ日本未上陸の時代だったので、学校へつけていくなり注目の的だったのを今でも覚えています。

クロスステッチ刺繍が施された赤いハンドバッグも、気に入りすぎて持ち手がちぎれるまで使いました。

今思い返しても、センスの良い人だったと思います。

 

叔母の父、わたしの祖父も洒落た思想を持つ人でした。
本を読むことをとても大切にしていて、わたしにも小さい頃から絵本をよく買い与えてくれました。

100万回生きたねこ」や「おおきな木」など、ちょっと哲学的な絵本をチョイスすることが多かったように思います。

五味太郎さんが好きで、彼なりの解釈で日本のことわざを説明する「ことわざ絵本」に至っては2巻セットで買い与えてくれました。あれは面白い。

少し哲学的で仏教的な思想が好きだったのかもしれません。
そして今思うと、ゆるい感じの絵が好きだったのかな?

叔母も似たような感覚の人で、彼女の部屋の本棚には小さなお地蔵さんの置物があったり、「河童が覗いたインド」が並んでいたのを覚えています。

わたしが子どもの頃はよく三越に連れて行ってくれて、ムージョンジョンで洋服を買ってもらっていました。その頃はミキハウスのほうが流行ってたんですが、叔母の趣味ではなかったようです。

ていうか今もあるんですね、ムージョンジョン。50周年だそうです。

たしかその頃、わたしは7歳くらいだったと思うのですが、叔母が店員さんと
「わたし、子どもがシックな格好しているのが好きなんですよね。グリーンのタータンチェックのワンピースにベレー帽とか。」
「あーわかります。かわいいですよね。」
という会話を交わしていたのを覚えています。
わたしはクラスの女の子たちのようにピンクや赤のキャラクターTシャツなんかが欲しかったけれど、センスの良い叔母がそう言うんだからきっとそっちの方が間違いないんだろうな、なんてひとり心の中で納得していました。

 

叔母自身もオシャレが好きでしたが、でもハイブランドにはあまり興味がなく、素材や仕立てが高級なものを好んでいました。
東京スタイルやスコッチハウス、イブサンローランあたりを身に着けており、中高生時代、わたしはそのお下がりを貰うのが少し楽しみでした。

 

物静かな人でしたが意外とアクティブで、サザンオールスターズの野外コンサートに出かけたりもする多趣味な人だったように思います。

 

祖父も祖母も叔母も全体的に物静かであまり感情を表に出すことが無かったのに対し、父親だけがアル中でワガママで短気で、家の中でも扱いに困っていたようです。
孫のわたしたちに会うのは楽しみだけれど、父が来ると皆気まずそうにしていました。

 

わたしに本を買い与えてくれていたのも、そんな父に倣ってほしくないという祖父と叔母の願望だったのかもしれません。

 

穏やかに優雅に過ごす独身貴族の叔母は好きでしたが、父親が疎遠になるにつれわたしも足が遠のくようになり、父親の離婚と共に一切連絡を取らなくなってしまいました。

生きているのかどうかも、今はもうわかりません。

 

毒母は短絡的な人間のため、祖父や叔母を「何考えてるかわからない人たち」と呼んで敬遠していました。わたしが泊まりに行って思考の影響を受けることを異常に嫌っており、祖父の家から本を持ち帰ると「気持ち悪い本!」と言って捨ててしまうこともよくありました。

相性が悪かったんでしょうね。

でも、たぶん、わたしには祖父や叔母の遺伝子が組み込まれているんだろうなと思います。
読書が好きなのも、きっと彼らのおかげです。

もう会うことはないだろうけど、あのとき読みそびれた「河童が覗いたインド」は、いつか手に取るつもりです。

 

感謝日記

データ入力のお仕事をていねいに説明してもらえた。
店員さんの接客が良かった。
初めて入ったパン屋さんがおいしかった。