30日間チャレンジブログ

40代主婦が綴る小話。

おっさんばかりのカフェ

お気に入りの革バッグの持ち手が壊れてしまいました。

近所で直してくれるところはないかと探してみましたが、どこもなかなかのお値段です。

「お、ここ良さそう」と見つけたお店は、公共の乗り物で45分ほどの距離。

交通費をかけても近場で直すより安く済みそうだったので、散策を兼ねて出かけてみることにしました。

 

行ってみて大正解。小さな店内にはオーダーを受けた革製品がズラリとならび、人気のほどを物語っています。

カウンターから丸見えの工房には専用のミシンが数台とたくさんの工具。

経験豊富そうな店主がカバンの持ち手をふむふむと観察し、「これなら1,000円で直るよ。お代は後払いね。出来たら電話するからここに連絡先を書いてちょうだい。」

これで受付完了。あっさり。

なんというか、老舗ってこういうアナログでシンプルなところが味わい深くていいですよね。

ものの数日で「直りましたからいつでも取りにきてくださいね。」と電話があり、仕事が休みの日にさっそく取りに伺いました。

想像以上の見事な仕上がりに大満足しつつ、「さてどこかでランチをして帰ろうか。」と思ったものの、慣れない場所で土地勘がない。

GoogleMapでカフェを検索すると、一見地味なお店が1件ヒットしました。

店内やメニューの写真は一切ないけれど高評価。これは気になります。

行ってみると、コンクリートのマンションの半地下で、小さな看板を掲げた木製のドアが半開きになっています。パッと見ふつうの住宅と間違えてしまいそう。

「こんにちはー」とドアを開けると、テーブルが3卓とカウンターが7席ほどのこじんまりとした店内に、半分ほどお客が入って食事やコーヒーを楽しんでいました。

 

そのお客さんがね、全員おっさんなんですわ。

おそらく会社の昼休みであろうと思われる30~60代くらいの男性が4,5人。

 

昨今のおしゃれママが集うカフェとは明らかに一線を画しています。

でね、キッチンから「いらっしゃいませ。コーヒー?」と気さくに話しかけてくる少し高い声。

細身の上品なマダムがにこやかに出迎えてくれました。

なるほど、人気の理由はこれだな…。

「ランチはありますか?」と尋ねると、「ありますけど、ごく普通の家庭料理よ。それでもいい?」と小さな黒板を見せてくれました。

チキン南蛮や野菜カレー、生姜焼き定食とナポリタン。

常連が集う店らしく、値段も書いてありません。

「じゃあ、ナポリタンで。」
「ランチはコーヒーもセットになってるの。アイス?ホット?食前がいいかしら、それとも食後?」

どこまでも朗らかで優しい物言いに、すっかり癒されてしまうわたし。

料理を待つ間もお客さんがどんどん入れ替わるのですが、相変わらず男性しかきません。わたし本当にここにいていいのかしら。

来る人は皆明らかに常連さんなのですが、特に会話が盛り上がるわけでもありません。

「あら、いらっしゃい。暑いわね。」「うん。」「今日は何にします?」「…野菜カレー」「はい、カレーね。すぐできるから待っててちょうだいね。」「うん。」

 

こんなもん。食後だって、

 

「ごちそうさま。」「ありがとう。850円ね。」「うん、はい。」「ありがとうございました。またね。」

 

で、おしまい。なのに続々やってくる。しかもみんなちょっとニコニコしてる。

 

なんだか見覚えのある光景だなと思ったら、わかった、アレだ。

紅の豚」のマダム・ジーナの店みたいな雰囲気。

ははーん、なるほど、みんな照れてるのね。ここのマダムも美人だもんね。

ひとりニヤニヤしながら様子を見守るわたし。なんだか嫌なオバサンですね…。

 

でも分かる気がする。
だって、ナポリタンがきたときに「すごくおいしそうですね。写真を撮ってもいいですか?」って聞いたら、
「えっイヤだわそんな写真だなんて。そういうのはもっとオシャレなお店で、ね?」と手を振って恥ずかしながら遠慮する姿がとても可愛らしいんだもの。

「味が濃いかもしれないの。心配だわ。どうかしら」
「いえいえ、すっごく美味しいです。わたしの好みの味です。」
「そう?良かったわ」
みんなシーンとしてるけど、絶対このやり取りを聞いてるよな…耳がこちらを向いているのがわかるぞ…。

 

食事を終えてお会計をしていると、「ハイ、これ」とキャンディが入った籠を差し出すママ。
「うちのお客さん、みんなアメが好きだから。おひとつどうぞ。」ですって。
みんな「うん」と「ごちそうさま」しか言ってないのにアメ好きを見抜くとはさすが。

 

いや~、なんだかいい時間を過ごしちゃったな~。

あのマダムに癒されるおっさんの気持ちも分かる気がする。
余計なことを言わず、でも「おつかれさま」って仕事をねぎらってくれて、おいしいごはんを出してくれるなんて最高じゃないですか。

食後のアイスコーヒーを持ってくるときだって「ハイどうぞ。時間までゆっくりしてってね。」なんて言いながらガムシロップとミルクをそっと置いてくれるんだもの、こりゃあ通っちゃうよ。うんうん。おまけに美人だしさ。

 

大人の世界の「本当にモテる」って、ああいう非日常の小さなときめきをもらえる場所を作る人のことを指すんじゃないかと思います。

見習いたいものですなぁ。

 

感謝日記
新しいお仕事に応募できた。
おニューのスニーカーをゲット。
きれいな花をたくさん見れた。