30日間チャレンジブログ

40代主婦が綴る小話。

家なき少女

「家なき少女」というお話をご存じですか?
家なき子」で有名なエクトール・アンリ・マロの作品です。
1878年家なき子、その姉妹作として家なき少女が1893年に発表されました。旅をしながら学びを得る家なき子レミとは全く内容が異なりますが、わたしはこちらの作品の方が好きです。
小学校の頃、何度も何度も図書館で借りて読みました。
今日はそのお話をすこしご紹介しますね。

 

母を病気で亡くした11,2歳の少女ペリーヌは、父方の祖父の工場を頼るためフランス北部へ向かいます。ですが、頑固な祖父はペリーヌの両親の結婚をよく思っておらず、勘当までしていたほど。それを知って恐れたペリーヌは素性を明かさず偽名を使って祖父の織物工場で働き始めます。

 

最初は女工の寮で寝起きしていたペリーヌですが、不潔な部屋と女工たちの下品な会話についていけず遂にそこを飛び出します。
かといって家賃を払って住むほどのお金はありません。
どうしようかと森の中を歩いていると、川のほとりに小さな釣り人小屋を見つけます。
今は時期ではないから誰の迷惑にもならないだろうと、ペリーヌはそこで一人暮らしを始めるのです。

この慎ましいひとり暮らし編がわたしは大好きでした。
見よう見まねで川で魚を釣ってみたり、家の周囲を散策するとうずら(だったかな?)の卵が見つかったりと、実は食べるものに困らない環境であることを身を持って知ります。
靴がボロボロになったときも、なんとか工夫できないかとあたりを見回し、ツル性の植物を使ってなんとか靴を編んでみます。売り物のように美しくはないけれど、自分で作ったという満足感がペリーヌに自信を持たせます。
工場の仕事はキツイけれど、今日は帰ったら何をしようかと考えるだけでわくわくし、帰りの足取りも軽くなるのです。

 

この、お金をかけずに豊かに生きる暮らしにすごくすごく憧れました。

実際のところ、アル中の父親のツケ払いで家計はいつも火の車でしたが、それでも自分の家の貧しさを嘆くようなことはわたしのプライドが許しませんでした。
近所には貧乏アピールをする親子もいて、誰かが新しいお洋服を着ていると「いいわねぇ。うちの子にはお金がないから買ってあげられないわ。」とわざわざ人前で言ってみたり、別の誰かが旅行へ出かけたと聞けば「世の中には我が家のようにどこにも出かけられない家庭もあるのよねぇ。」と嫌味たっぷりにひがんでいましたが、わたしは絶対そうはなりたくなくて。
「お金がなくても楽しく暮らせるはずだ」という強い思いがいつも心のどこかにあった気がします。
それを証明してくれたのが、この「家なき少女」のお話でした。

ちょっとしたひと手間や手仕事を加えて自分の暮らしをカスタマイズするのは、誰が何と言っても絶対楽しいに違いない。
ないものをすぐに買うのではなく、あるものを使って工夫する。
その楽しさを教えてくれたきっかけになった、本当に思い出の1冊です。

 

不思議なもので、その考えを軸に持つようになると似た思考の人が集まってきます。
わたしが子どもの頃住んでいた小さな住宅地は全体的に低所得世帯が多かったのですが、先に述べたひがみ系貧乏家族の他に手先の器用さで乗り切る職人系貧乏家族もけっこういました。ボロい家や庭をちょっと手直しして快適にしたり、手縫いのパッチワークキルトで家の中を飾ったり。
そしてわたしもだんだんと、そういうおうちへ足が向くようになるんですよね。
その頃に教わった裁縫や編み物、プチリフォームは今の暮らしでも役立っています。

 

以前に井形慶子さんの著書が好きだという話を書きましたが、元を正せばここから始まているような気もします。
井形さんの本も「少ないお金で豊かな暮らし」を推奨していますが、わたしがそこに惹かれるのは、きっと土台にこの家なき少女の話があったからだと思います。

 

ペリーヌが手作りの暮らしによって得た満足感と自信はやがて工場の仕事でも功を奏するようになり、積極的に自分を売り込めるようになります。最終的には自分が孫であることを勇気を出して明かすという王道のラストで幕を閉じます。このあたりはもう名作の定番の展開で、正直言って面白みはあまりないのですが、でもあの一人暮らしのシーンは今でも時々読み返したくなります。

 

なつかしさのあまり図書館に行って探すこともあるのですが、わたしが好きなのは当時出ていた岩崎書店の「世界少女名作全集」。このシリーズがもう絶版のため、どこを探してもないんですよね。
それなりに名作なので他の出版社や翻訳もあるのですが、どうもいまいちピンとこない。やっぱり最初に読んだあの訳がいいんだよなぁ。
挿絵も少ししかなくて、スケッチみたいなシンプルな線画だったのですが、それが逆に想像力を刺激していいんですよね。
こじんまりとした木造の小屋で屋根の隙間から漏れる朝日で目を覚ます様子を頭に描きながら読み進めるのは、本当にわくわくして楽しかったなぁ。

 

メルカリやヤフオクでシリーズ全巻を売っていることもありますが、さすがに全部は多すぎて置くスペースがありません。いつか電子書籍にならないかしら。

本当に、生涯心に残る素敵な作品です。

 

感謝日記
お弁当を美味しく作れた。
接客を褒められた。
欲しかった服をセール価格で買えた。